第36回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』に加え、『砂子塾』と銘打つ富士P2や筑波ジムカーナ場での広場トレーニングで多くのドライバーを教える砂子塾長の連載コラム。

ドライバーズタイトルを獲得したはずのブランパンGTワールドチャレンジアジア2019。しかし、チームオーナーの奇想天外な意向により、最終戦の上海は木下隆之・砂子塾長組が、別々のクルマで戦うことに!

昨日の味方は今日の敵!?

ブランパンGTワールドチャレンジアジア2019は、韓国ラウンドでチャンピオンを獲得したはずだった…。

ことの発端は韓国インターナショナルサーキットでチャンピオンを決めた夜。BMWチームスタディのオーナー兼監督であるBOB鈴木(30 年近くのつき合い)が、ハイボールをグビグビ飲んで酔いが回ってきた頃。

 

「じゃ、もう最後に決着つけない?」
「何を?」
「アニキと砂子ちゃん」
「どっちが速いか !?」

 

一同は冗談だと思いながら、それぞれに面白がった。

「もう1台のM4GT4、82号車を走らせて、最終戦の上海ラウンドで1台ずつ、 81号車は木下アニキ、82号車は塾長で、戦わせようという、アホみたいな、レース界で、そんなの誰もやらんやろ!」と、本人はいたく満足気であった。まわりもまわりで、

 

「セナ・プロ対決や~」
「1コーナーでガッシャーン!」

ノリノリの悪ノリだ。

じつは82号車は、7月の富士ラウンドでクラッシュし、フロント部のフレーム修正が必要だった。8月末までに修復が間に合えば、上海への船便に間に合うのだという。それが ……間に合って ……しまったのだ(笑)

昨年、10年ぶりの復帰を果たし、木下アニキとのコンビにまったくの不満もなく過ごしてきた。若手の日産時代から、アニキは仲のいい先輩。

プライベートでも、海や居酒屋で語り合い、お互いをリスペクトし、高め合ってきた。ひさしぶりにコンビを組んで、2年間、戦ってきた。予選タイムなどもコンマ数秒と変わらず、データロガーのスピードグラフ、ステアリング舵角、ブレーキリリースタイミングなども、大きな違いは見当たらない。

確かに、このふたりが別々のクルマでトップ争いをしたら面白い。

あくまで第三者の目線だけど…。

じつは、その裏には、もうひとつの大きな野望、チームタイトルがあった。昨年は2台エントリーで獲れたチームタイトルだが、今年は82号車が富士のスポット参戦のみだったため、AMGの2台体制のチームが現時点での最有力候補。それを我がチームが2台参戦で、チームタイトルまでいただこうという企てなのだ。

…って、どこまで欲張るねん!

そして、さらにもうひとつの理由。この2年間のプロジェクトの締めとなる上海ラウンドを消化レースにしたくないという思い。

こんな奇想天外なBOB鈴木代表はBMW乗りのカリスマであり、チームの人気というより信者は全国に多数。それこそ、このチームで驚いたのが、海外なのに応援に来ちゃうファンの多さ!

そんな、わざわざ上海まで来てくれるファンのためにも、最高のエンターテインメントを観せてやろうじゃないか!の心意気なのだ。

当事者のアニキとオレも、まさか本当にやるとはと思いながらも…、金曜日レース1で、たとえば砂子・木下の順でワンツー。土曜日のレース2で木下・砂子の順でワンツーになれば、ふたりとも仲よくドライバーズタイトル。

そして、2台体制のAMGチームがコケれば、チームタイトルも…なんて、考える。だけど、そんなに上手くいくはずがない。

ましてや、前回の優勝によるサクセスペナルティ15 秒もあり、1名ドライバー登録の7秒と合わせて、号車は余計なピットストップを強いられる。82号車はそれに準じて、同じ時間を自主的にストップするのだ。「アニキvs 塾長」を盛り上げるために。

わざわざ追い掛けて船便で送られたオレの乗る82 号車は、富士での機能チェックを無事に終え(わずかだが、いい感触)、決戦の地、上海に到着。レース序盤、俺とアニキはバトルしている場合ではない。

22 秒ものストップ時間を稼がねばならない。さて、どうなる? 前代未聞の『ドライバーズタイトル自主返納』になってしまうのか? 

9月27 28 日、運命は決まる。

Revspeedで毎月コラム掲載