第8回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

インストラクターとして、アマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム。自身の持論をもとに、スキルアップを願う読者にエールを贈る。第8 回目は『暑熱順化で夏を乗りきれ!』だ。熱中症にならないための身体づくり夏のサーキットをエンジョイするために準備しておきたい。

暑熱順化で夏を乗りきれ!

南西からの高気圧に覆われ、いよいよ梅雨と夏が近づくこの季節。ウォーターマンとしては「待っていました!」の気温25℃超えだ。

タイムアタックのシーズンは終わり、レブスピード読者の中には秋が待ち遠しい人もいるだろう。しかし、モータースポーツのシーズンは真っ盛り。現役の頃は「何もこんな暑い時期にレースなんぞ」と、よく思ったものだ。熱はマシンにとっても最大の敵。水温・油温・ブレーキ・ミッション…… もちろん、ドライバーもヒートさせてはならない。

世界統一のFIA GT3マシンはエアコン装着が義務づけられている。ヘルメットに装着されたダクトに冷風を送り込むシステムはご存知の人も多いことだろう。「根性」という、もはや「死語」が当たり前のその昔は、10数㎏のクールスーツを下ろして耐久レースに臨むのが美学(?)だった。

現在はGTAに勤める大先輩の岡ピーこと岡田秀樹選手の現役時代のエピソードがある。

夏の鈴鹿の耐久レース。当然のごとく、クールスーツなしで臨んだ岡ピー。その日はとくに暑く、湿度も台風明けで異常に高い。順調に走行していた岡ピーだが、左ふくらはぎがツッテしまった。脱水や熱中症の代表的な症状が筋肉のツリである。

無線で岡ピーは叫んだ!「足!足が!コムラ返り!!」

ピットで監督は絶句!

監督「えっ!? 足もとにコブラがいる!? どこに???」

岡ピー「足だよ! 足!!」

監督「コブラがいる?足に?」

岡ピー「そうだよ!コムラ返り!!」

監督(不安そうに)「ピット入れ!」

岡ピー「りょ~かい!もうダメだ~ 死ぬぅ~」

緊急ピットインでマシンからもんどりうって這い出した岡ピー。メカニックたちは恐る恐るコックピットを覗く…。って… いるわきゃない!どう考えても、岡ピーの盛り過ぎ感満載ネタだ。

5月11日、埼玉県越谷市の小学校で、8時過ぎからの校歌練習中に、児童がたった1時間後の9時過ぎに熱中症と見られる症状で救急搬送されたニュースが報じられた。そのときの気温は21℃。どれだけ最近の子供は暑さに弱いんだか…。

人間の深部体温は37℃で一定に保たれなければ恒常性を維持できず、生きてはいけない。その体温を調節するラジエーター機能が汗腺からの汗による発汗反応と、皮膚血管を拡張させ、血流を増やしながら皮膚表面から熱を放出する皮膚血流反応の2つだ。

汗腺の数は3歳までに決まるともいわれている。当たり前だが、暑いところに住んでいる人は汗腺が多く、暑さに強い。では、大人になってからでは暑さに強い身体になれないのだろうか?

そんなことはない。汗線からの汗が出る前段階で前述の皮膚からの熱放散が始まる。皮膚血流量を増やせば効率的に熱放出できるのだ。また、汗腺の働きをよくすると、通常は水分と一緒に体外に出てしまうナトリウムも放出前に吸収できるようになるそうだ。

暑さに対応できる身体になることを暑熱順化といい、これはやっぱり運動が何よりいちばんの薬。冷房に頼らないこと。お風呂に漬かること。有酸素運動の3本柱で暑熱順化は可能だ。また、運動後の牛乳は血液が増えるといわれており、熱中症予防ドリンクなのだ。

とはいえ、クソ暑い夏のサーキット。連続走行でなければエアコンONもありだが、コンプレッサーへの負荷が大きく、寿命がやや気になるところ。高回転時のエアコンONはオススメしない。もっとも、最近のクルマは勝手にOFFになったりするが、ONにするなら低回転のときに限るべき。

まあ、愛車を労わるなら助手席側の窓を開けよう。そして、自身のラジエーター機能を日頃からお手入れしておきたい。暑さに弱い男って、何だか、かっこ悪いし(笑)さぁ~来い! 暑~い夏!

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