第4回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

インストラクターとして、アマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム。自身の持論をもとにスキルアップを願うレブスピード読者にエールを贈る。第4 回目は『ルーティーンの○と×』プロにとってはサーキット走行自体がルーティーンワークその脳内に近づくのが理想と説く。

ルーティーンの○と×プロは走行自体がそれ

「ルーティーン」の言葉の意味は、決まりきった作業、手順、動作を指す。今回のコラムでは、ルーティーンの○と×をさまざまなシーンで考察していこう。メジャーリーガーにして、いまなお、トップスターの地位にあるミスターストイックことイチローのバッターボックス。もはや誰もが物真似できるともいえる、右バットを大きく掲げ、その右肘あたりの袖を上げるシーン。

これは彼にとっては儀式的に行う行為で「いつもと違う」と感じないように、つまり、その違うと感じた瞬間、脳が別のことを考えてしまうのを避けるためでもあろう。より脳内をクリアに保って、投手のボールを追う目に集中させるルーティーンだ。

朝のジョギング。いつものコースを30分。日々、同じコースを走ることによって、その日の体調を肌で感じることができる。ただし、朝の脳トレとしては、ほぼ考えることも少なく、脳内活性には同じ30分をさまざまなルートで自宅に戻るプランを考えながら、立体的に自分の位置と距離を照らし合わせながら、走るほうがよいとされている。

つまり、何も考えなくていい状態にするためにそうするのがルーティーンワークのよい点なのだ。何も考えずに筋肉の増強のみを望むなら黙々とジムの筋トレ。ついでに脳内の客観的組み立てや、予測・反射を伸ばしたいならいわゆるスポーツをするべきであろう。

最近のレース中継ではお馴染みの言葉となった「あ~これは… ルーティーンピットですね…」だが、そのとおりの「最初から決めていたピットイン」を意味する。

さて、初めてのサーキット走行会。何をどうしたらいいのやら…。ドキドキしながら走行時間を待ち、走行開始2分前にトイレに行きたくなり…。そんな思いをした読者諸君も多かろう。

そこはとにかくルーティーンのススメだ。何も考えずに走行に臨む。何も考えないというのは語弊があるが、ここでは「余計なことを考えない」の意味だ。朝の受付から始まり、何時に何をするか、自分タイムスケジュールをつくって、10分前にトイレ、5分前にタイヤの空気圧チェック、3分前にヘルメットを被るなど、できるだけイレギュラーを減らして走行に備える。ヘルメットとマスク、グローブは助手席か後部座席に並べておく… なんていうのも◎。

我々、レーシングドライバーは、それこそサーキットランそのものもルーティーンワークである。レーシングカーであれ、チューニングカーであれ、ノーマルカーであれ、サーキットのその場所で行う動作は大枠同じであって、富士の1コーナーにアクセルOFFのみで入るマシンなどなく、決まりきってビッグブレーキからの進入。

つまりその瞬間は余計なことなど考えていないということになる。インプレッションなどはその最たるもので、コーナー進入からコーナリング、そして立ち上がりまでのルーティーン動作をしてみたとき、そのクルマがそれに対してどんな動きをするかを見る。それこそがインプレッションであって、イレギュラーなドライビングであってはならないのだ。ルーティーン動作をしているのだから余計な脳の働きを使用しない分、より多くの情報が脳内の空きスペースにどんどん入力されるわけである。

サッカー界のスーパースター、ネイマール選手はゴールを決める瞬間にさほど脳を使わないことが研究で明かされている。彼ほどの選手ともなれば、その動作は考えるほどのものでもない、いわばルーティーンというわけだ。その脳の空き容量が多ければ多いほどよいのである。

プロドライバーが理想であればその脳内に近づくのが早道。少しでも余計な脳の使い方を減らして、サーキットランをルーティーンにしていく。もちろん、これにはマイルが必要だ。昨年11月24日に起きた福島沖M7.4の地震。津波警報が発令され、5年前の悪夢がよぎるも地域住民は迅速に高台に非難した。警報に対するルーティーン動作の最たる例であろう。

交通事故。その多くが自宅から5㎞圏内で起こる。「いつもここはクルマも人も来ないから大丈夫…」これこそルーティーン動作が招く最大の過失動作だ。日々、時間単位で変わるものに対してはルーティーン動作はまったく通用しないこともきつく憶えておいていただきたい。

 

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