第23回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム。今回は絶滅したドライビングの操作についてちなみに、塾長の近況は、7月に富士スピードウェイで催されたブランパンGTアジア第7戦・第8戦で、GT4クラス2連勝!鈴鹿での1勝と合わせて3勝をマークしている。

わけあって絶滅した操作

『わけあって絶滅しました。世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』は、ここ最近、読んだ本の中でお気に入り。この地球では、さまざまな生物が生まれ、進化、繁栄し、そして、絶滅していく。

環境の変化にそぐわなくなった絶滅、天変地異、はてまた人間の活動で絶滅に追いやられた種も少なくない。この地球上の生物で未来永劫、絶滅しません! な~んて生き物は存在しないのだ。

最もメジャーな絶滅は6600万年前の巨大隕石の地球衝突による恐竜の絶滅だろう。あまり知られてないのは2億5000年前の『スーパープルーム』と呼ばれる海底からの大量のマグマの噴出。これで当時の海洋生物の96%が絶滅したといわれている。オウムガイは5億年前から現代まで生息している。隕石衝突すら乗り越えた。究極のやる気のなさ(笑)や週イチの飯、生存競争を避けた深海への移動が身を助けた。生き残るにはエコと戦いを避けること?

さて、本題に入ろう(笑)。『絶滅』それは、環境や進化にそぐわなくなったもの。必要なくなったもの。ドライビングにもあるよね~。『絶滅』してしまった『操作』を紹介していこう。

まずは『ダブル・クラッチ』。言葉のとおり、シフトチェンジの際に、まずニュートラルに。1回クラッチを戻し、もう1度踏んでギアを入れる動作である。ミッションやシンクロの強度向上により、80年代には絶滅した操作だ。

次に『セナ足』。説明の必要もないだろう。アイルトン・セナのコーナリング中のスロットルON/OFF操作だ。1980年代後半から90年代前半に掛けての空前のF1ブーム。セナvsプロストに熱狂し、当時のセナのオンボード映像はバイブル化したほどだった。そのセナのコーナリング中の微妙なスロットルON/OFFを一度は誰もが真似たことだろう。

この動作には諸説あるが、バランススロットルといわれ、鈴鹿のS字などでは、結果、ボトムスピードを落とさない効果があるなどといわれたが…。

オレの見解はこうだ!セナはあのセナ足を多用しなければ、もっと速かったのでは!?

立ち上がりのアクセルON後のOFFは失敗と認識しろ!これが現在の定説であり、スロットルコントロールというのは踏み始めから全開までの踏み込んでいく過程のことを指していて、決して戻したり踏んだりという操作ではない。

セナ様に対して何てことをいう!そんな声が聞こえてきそうだが、天才はもっと凄い天才だったのでは?
そんな尊敬を込めて『セナ足』を絶滅種と認定したい。

最後はステアリング操作の『ソーイング』。コーナーステア中の細かくステアリングを動かす操作をいうのだが、これはいつ頃に流行って絶滅したか、定かではない。

セナ足同様、このソーイングのメリットは理論上存在しない。細かく切ったり戻りたりを行えば、クルマのロールアングルは一定に保たれず、もちろん、タイヤに対する面圧も安定しない。ウエットのコースインラップにグリップを探るように少しソーイング気味にステアすることはあっても、探り終え、温度上昇とともにこのソーイングはしなくなる。

しかし、まだ、ここ最近でも、このソーイングを癖とするアマチェアは少なくない。これはレーシングカーのオンボード映像に感化されたせいではなかろうか?

レーシングカーは、その多くがブッシュではなくピロであり、路面のギャップやタイヤの動きがダイレクトにステアリングに反応する。そのため、ドライバーはその動きを抑え込むように細かく動かしているように見えるのだが、これは意図して操作しているのではなく、そうなっているのだ。それを多くの人が「そうするのが正しい」と勘違いしているようだ。

市販車ではいっさい不要の動作で、一定スピードで緩やかにステアしなければならない。ソーイングは絶滅したかに見え、しかし、まだ、我々の知られざるコックピット内で生息確認されている(笑)。

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