第43回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

『許せない』より『自覚』が大事

他人を許せない人々が増えている。芸能人・著名人の不倫騒動、清純派であれば、なおのこと『許せない』対象者への怒りに満ちた感情……。知りもしない、友達でもない芸能人が何していようが、オイラの知ったことではないのだが(笑)。

渦中の新型コロナウイルスでは『サーファー』『パチンコ店』といった、さまざまなターゲットをメディアが大袈裟に取り上げ、人々の『許せない』感情を煽る。ネットの書き込みは日々、許せない行動、許せない方々への非難や中傷であふれ返っている。

人は、なぜ他人を許せないのか〜正義中毒

脳科学者である中野信子さんの著書『人は、なぜ他人を許せないのか』では、そのような状態を『正義中毒』と呼んでいる。他人に正義の制裁を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質のドーパミンが放出されて、さらに罰する攻撃対象を探すのだという。

まさにメディアは人々の悦びを知っているのである。また、SNSがそれをグングン加速させているのだ。

サーフィンの現場でもよくあるトラブルが『前乗り』。通常、波が崩れる側とは反対側へ滑っていくのだが、その滑っていく側に後からドロップインするマナー違反の行為である。

上手いプロと同じ波でセッションをした経験もあるのだが、プロは前乗りされようが、お構いなしに、ドロップインしたサーファーを何もなかったかのようにかわしていく。

そもそもせっかくの休日。前乗りしたサーファーに怒鳴るのも、自分自身がイヤにならないものか?もちろん、ルールやマナーを軽視しているわけではない。いい方を変えれば、お互いが海の上で気持ちよく過ごせることが、自他ともにいちばん望ましいことであるはずだ。

 

モータースポーツの世界でもよくあるイザコザ

最近では減ったものの、かつてはレース後のいい争い、喧嘩はつきものだった。

「アイツ、ミラー見てなくて、寄ってきやがって……」

90年代の全日本ツーリングカー選手権(グループA)で、福山英朗先輩が御大・長谷見昌弘さんと組んでいた『ユニシアジェックス・スカイライン』での話。あるレースで不穏な動きをするアマチュアの車両と福山さんは接触してしまった。

ピットでいいわけは……できない。そして、長谷見さんはこういった。

「福山くん、そのクルマは金曜日から走っていたよね。何度もコース上での動きを見ていたよね?」

福山さんはぐぅ~の根も出なかった。100%長谷見さんのいうことは正しい。その不穏な動きの車両は相当気をつけてパッシングしなければならないのは、いうまでもなかった。

もちろん、ガチなプロフェッショナルレースの現場と草レースや走行会などでは、その場の雰囲気に大きな違いはあるだろう。我々、プロがゲストドライバーとして参加する走行会。車両チェックや同乗走行などで、参加者の中に混じって走る機会も多い。

その最中、ミラーを見てなくてヒヤッとするシーンは、実はあまりない。クルマのバックミラーやサイドミラーからドライバーの顔の向き、視線まで確認しているのだ。

レーシングカーと違って、市販車は後方からドライバーの様子がわかりやすいお陰だ。そして、万が一、ヒヤッとしたところで、我々プロが参加者を叱咤・激怒することなどあり得ない。

 

プロのガチ・レースでの喧嘩はエンターテインメント!

プロのガチ・レースではトラフィック外のドライバー同士の喧嘩は大歓迎のエンターテインメント!

場所や空気感にもよるが、大きな俯瞰の目を持っていこうじゃないか。再三いうが、マナー・ルールを軽視するということではない。

楽しい休日のサーキットラン。中には楽しみに、そしてドキドキしながら初走行をしている人だっているかもしれない。走行会はその時間、同じトラフィックというゲレンデで楽しむもの。初心者にも優しい気持ちでいてほしい。

これから仲間となる可能性を秘めているのだから……。

終わりが少しずつ見えてきた新型コロナウイルス。苦しいときほど人は試される。『許せない』よりも『自覚』が大事。みんな頑張ろう!

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