第38回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』に加え、『砂子塾』と銘打つ富士P2や筑波ジムカーナ場での広場トレーニングで多くのドライバーを教える砂子塾長の連載コラム。

2019年は、ブランパンGTワールドチャレンジアジアで日本人初のGT4チャンピオンとなり、最高のカタチで終えられそうそんな中での執筆だからか、テーマは『ポジティブ思考のススメ』

ポジティブ思考のススメ

飲み会に早く到着してしまい、ひとりチビチビと始めていた。隣には40歳代と思われるサラリーマンたちがすでにいい湯加減のご様子。それとなく会話が耳に届いてしまう。

「だってあのAさんったらさ!」

お決まりの上司の悪口と愚痴。

「B子も最低だよな……」

「こんな給料で将来……」

ネガティブ話は止まる気配がない。

よく酒を飲んで、いやなことを吐き出す行為は、ストレスの解消といわれるが、精神心理学上では、ネガティブ心理の上書きであるといわれている。

楽しく酒を飲み交わし、ポジティブに「また明日も頑張ろう」であればよいのだが……。まあ、組織の中はいろいろあって、難しいやね。

ミスタージャイアンツ、いや、ミスタープロ野球の長嶋茂雄。

日本一の大スターであり、王貞治と並ぶ、オレの小学生時代の神様だ。その天然キャラから発せられるミスター語録はネットでも多くの特集が組まれるほど。

ミスターにゴルフに誘われたビートたけしさんは、仕事をキャンセルしてまでゴルフ場へと足を運んだが、ミスターにゴルフ場で朝、開口一番、

「お~、たけちゃん~。今日は誰とラウンド?」

監督時代、円陣を組んで、

「いいか! オマエたち、絶対に諦めるな!人生はGiveUpだ……」

それら迷言の数々は、まさにホームラン級である。

そのミスター。究極の『ポジ男』であったのも有名だ。4打数ノーヒットでゲームを終えた夜。ミスターは新聞に油性マジックで、大きく次の日の見出しを書いたそうだ。

「長嶋8回裏に逆転満塁ホームラン」

また、新人時代のあるときは、

「長嶋の実力は川上監督も大絶賛!」

つねに注目を集め、スターになるんだ!という強い誓いを、毎夜、新聞に書き込んだという。いやなことなど、すぐさま忘れて、究極のポジティブ思考。凡人には、なかなか思いつかない行動だけどね。

実は、恥ずかしながら36年前、富士フレッシュマンレースにデビューしていたオレも、その当時、夜な夜なサインの練習をしていた。なぜなら、今後、絶対にサインをファンの人に書くことになるから……。強いプロへの意識、絶対にプロになってやる!という想い。

聞いたら『ポジ男』だって、間違いなく思うでしょ?

今季、鈴鹿のVITAで2勝を上げた塾生のひとりである眞田拓海。彼ともてぎで行われていたF4レースを視察したが、そのときの感想を求めた。

「どうだった?」

「はい!とても勉強になりました。トップ数台は、たしかに上手いとは思いましたけど……」

「けど?」

「ま、すぐに自分でもできそうだな~って思って……」

いいぞ、いいぞ! そのポジティブ思考は未来につながる。

しかし、モータースポーツはポジティブだけでは危険だ。最悪想定も危険感受性として必要である。

1998年5月3日の富士スピードウェイ。全日本GT選手権での大クラッシュ。オレも大火傷と右足膝粉砕開放骨折という重傷を負った。あのときは『勝つ気』満々のポジティブ思考オンリーだったような気がする。

それ以来、いつもレース前はレース後にゆったり家でくつろぐ自身の姿を想像し、エマージェンシーを頭の片隅に置きながらポジティブに想像を巡らせてレースに臨むようにした。

恋愛の別れた後で、女性と男性ではだいぶ記憶のとどめ方も違うのだそうだ。女性はいやな思い出ばかりが残り、男性はいい思い出ばかりが残るらしい。だからこそ、男性は別れた後の未練も残る。

一方、女性はいやな記憶を消すためにも、あっさりと次の恋愛へと動き出すんだとか……。それに関しては、いずれがポジティブ思考といえるのか、わからない(笑)。

まあ、『ネガ男』よりも『ポジ男』のほうがモテることには違いない。そのポジティブな生き様は、吸引力となって多くの協力者が集まる。目指すものにも、仕事にも大事なことだと思わないかい?

今日の新聞の一面に、明日の自身の活躍を書こう!思いつく、ささやかなことでもいいって!とにかくポジティブにね!

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