第31回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』に加え、『砂子塾』と銘打つ富士P2や筑波ジムカーナ場での広場トレーニングで多くのドライバーを教える砂子塾長の連載コラム。

現役復帰2 年目の初戦となったブランパンGT シリーズ・アジアの開幕戦セパンラウンドは2連勝と幸先のよいスタート当初、今回のコラムは違うネタのはずだったが急きょ、書かずにはいられないネタが飛び込んできたようだ。

マシンコントロール以上に大事なセルフコントロール

TVCに1本の電話が……。

「テレビ朝日スーパーJチャンネルの制作の……」

新東名高速の最高速120km/h引き上げ試行区間、新静岡IC~森掛川ICでの速度取り締まりオービスは3箇所であるらしい。その120km/h試行区間で、なんと90km/hオーバーの210km/hもの速度で、初の逮捕者が出たという。

そこで番組は、200km/hオーバーと120km/hの走行感覚の違いを東京バーチャルサーキットで体験し、オンエアしたいとのお願いだった。また、プロドライバーとして、200km/hの危険性等々のお話をインタビューさせてくださいとのこと。

もちろん、快諾し、ロケはテレビ朝日からメチャ近いTVCで行われた。興味深いと感じたのは、新東名120km/h区間の3車線の幅は1車線が3.5m×3車線+路側帯=14m。そして、富士スピードウェイのピットロード付近の直線での幅が15m。ほぼ新東名のそれと同等なのだ。

TVCのシミュレーターで、富士スピードウェイのストレートでの210km/hを体験したアナウンサーは「とても速く感じます!」とコメント。しかし、カメラを止めてから聞いてみた。

「ホントに速いと感じた?」

「いや……ま、そうでもないですよね」

それこそが真実でワナでもある。幅15mもの見通しのよい直線で210km/hなど速く感じないのだ。逮捕された無職で20歳(これがアウディに乗っていたのも話題)も決して速いと感じていなかったのでは?

見通しよく、他のクルマが走ってもおらず… アクセルを踏めば出てしまうパワー。もちろん、速度違反を擁護するわけではない。そもそも論として、これだけの綺麗な道路、高性能なクルマで120km/hの速度制限。ここにまず問題の提議があるのだが。

現実、日本のドライバーレベルや民度からすると、危険である。速度無制限のアウトバーンが存在するのに、なぜ(危険)? アウトバーンは追い越し車線をノロノロ走るクルマはいない。

また、トラックが前のクルマをパスしようと追い越し車線に出ることなどあり得ない。

この新東名の120km/h速度区間でも、トラックの最高速規制は80km/h。もし、80km/hのトラックが走行していれば、210km/hとの速度差130km/hにもおよぶ。その速度差こそが何よりの危険因子。速度ごとのレーンを遵守するアウトバーンと違い、ドライバー民意の低い日本では危険度高過ぎクンである。

スーパー耐久レース。GT3車両からロードスターやデミオが参加するST5クラスまでのさまざまなレースカーが混走する。GT3車両の、富士での最高速は280km/h弱、対してST5の最高速は200km/h。ここに70km/h以上の速度差が生まれる。雨など降ったものなら、富士のストレートは目隠しの肝試し大会になる。

視界不良の水煙からST5車両が突如として現れる(怖)。ストレートこそが速度差を生む危険箇所。逆に低速のヘアピンなどの速度差は少なく、リスクも同時に少ない。

話を戻すと、インフラ整備や法規制、クルマのさまざまなアクティブセーフティデバイスやタイヤの性能向上によって、高度経済成長期と比べれば死亡事故が激減した日本。しかし、いまだ軽物損事故では先進諸国中でナンバーワンのクルマ運転ヘタクソ大国。

さまざまな法規制による『抑圧』こそが、最善の事故抑止なのが残念でならない。もっと、それを動かす『人間』の教育が不可欠である。大事なのはマシンコントロール以上にセルフコントロールなのだから…。

さて、放送された映像を見て愕然。これ、テレビあるある。インタビューの大事なところはすべてカット(笑涙)。

それでも運転に関するニュースや事故が起こると、「プロドライバーに聞いてみました」で登場するタクシードライバーに、もの凄い違和感を覚えていたオレに、インタビューを撮りにくるだけマシ。運転のプロは我々レーシングドライバーなのだから……。

Revspeedで毎月コラム掲載