第19回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長が持論をもとに、スキルアップを願う読者にエールを贈る連載コラム今季、ブランパンGT アジアシリーズにチームスタディBMWよりM4GT4でフル参戦となる塾長開幕戦のセパンでシミュレーター効果を早くも実証!

photo by Miyuki Shimazaki

現役復帰レースは2位

「砂子ちゃん、レース乗らない?」そんな1本の電話が、チームBMWスタディの鈴木康昭代表から掛かってきた。彼とは約30年来の友人であり、若かりし日は夜な夜な遊びをともにした悪い仲間(笑)でもある。

2008年からスーパーGTをBMWジャパンのワークスとして戦ってきたトップチーム。
「えっ! え~っ? 何? どーゆーこと!?」
「ブランパンGTアジアで戦いたいと思ってさぁ~」
「なんでオレ?」

引退して10年も経つオッサンを誘う理由が知りたかった。
「絶対、砂子ちゃん、まだ速いよね?」
「さぁ~どうだろう?(笑) でも、速いと思うで!」
そんな冗談にもとれる会話から始まったオファー。

新たにチームBMWスタディが参戦するブランパンGTアジアGT4クラスには、ドライバー規定の縛りがあるのだという。『ブロンズドライバー』でなければならない。『プラチナ』『ゴールド』『シルバー』『ブロンズ』の順にFIAが定めたドライバー格付けがあり、『ブロンズ』(つまりは最下ランク)しか参戦が認められない。

では、オレは?規定では、5年以上のブランクはいやおうなしに『ブロンズ』扱いなのだ。実際に50歳を越える元プロドライバーの『ブロンズ』は、ヨーロッパでも、もてはやされる現象が起きているという。

鈴木代表がオレに決めた理由は、もちろん、これだけではない。昨年、『ポルシェマガジン』(他誌ですみません)の巻頭グラビアでオールヌードを披露し、その鋼のような肉体(自分でいいますが…)を見たときに…
「これで衰えているわけがない」「このまま引退させておくにはもったいない」と思ったそうなのだ。

普段のライフワーク、スポーツが仕事に活きたのである。もし、オレがスポーツもせずにブヨブヨ引退後に太っていたら、この話は100%なかっただろう。

引退から10年、TVCを始めて7年目、シミュレーター効果を実証するタイミングで10年のブランクは、むしろうってつけでもある。もちろん、自信がなければ受けられないオファーである。

やったるで!体制も申し分ない。コンビは、もう腐れ縁とでもいおうか? 木下隆之、「アニキ」だ。アニキは現役ながら55歳を越えているので、自動的に『ブロンズ』。さぁ~やったろか!

富士スピードウェイでのシェイクダウン。10年ぶりのレーシングカーは刺激あるものの、3ラップでほぼ想定のタイムをマーク。これこそシミュレーターの恐るべき効果!自身が違和感なく、いつもどおりに解析・フィードバックし、具体的な操作プランを立ててアクションする。シミュレーターでいつもやっているとおり。

そして、ついに迎えた開幕戦のマレーシアラウンド。セパンサーキットは10数年前のGTで走って以来だが、不安などない。順調にテストスケジュールをこなし、土曜日は予選とレース1。これまたメンタル的にも嘘偽りなく落ち着いた自分がいた。

不安は未知への経験不足から起きがちだ。しかし、異国で知らないドライバーたち、その空気感はレースウィークにつかんでいる。

レース1は淡々とパートをこなして4位フィニッシュ。明日への作戦でもある。そして迎えたレース2。スタートはオレだ。レッドシグナルがグリーンへ、1コーナーへと団子!「そうそうこんな感じ」な~んてしんみり感慨深くなっている場合でもなく、バトルを注意深く楽しんだ。

結果は0.15秒差の2位ポディウム。勝てたレースだけに悔しい。「悔しい、マジ悔しい」

気づけば、この悔しさは現役時代と何も変わらない。体力、スキル、そして、いちばん大事な気持ち。次戦、タイ・ブリーラムラウンドは必ずキツイ我がBMW・M4GT4。しかし、そんなシチュエーションこそ余計に燃える。

「オレが何とかしてみせる!」そう書いている瞬間もそう思っている。気持ちまで、すっかり以前と変わらぬプロドライバーに。まさに『復活』である。


【砂子塾長】
F3、JSS、N1耐久、スーパー耐久、全日本 GT選手権などで活躍し、引退後の現在は高性能ドライビングシミュレーターを擁する『東京バーチャルサーキット』でインストラクターを務める。陸・海・空と、さまざまなエクストリームスポーツに挑むアスリートでもある。

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