第22回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長が今季は10年ぶりに現役復帰!ブランパンGTアジアシリーズは鈴鹿ラウンドのレース1で待望の1勝目を挙げた。
今回は時事的なネタで、ドラテクにはちょっと遠い話だが……

ファンの声が育てるモラルとマナー

暑い!夏の太平洋高気圧の上にチベット高気圧が蓋をしている状態。しかし、記録的な暑さ以上に熱かったサッカーWカップ。1次リーグ突破、ベスト16を賭けたポーランド戦。ポーランドに0対1で負けているのに得失点差を考えて、後半、日本はこれ以上の失点を許さないための時間稼ぎと守備に徹した。

この作戦や監督の指示に反発する意見も多かったが、レースに置き換えると……。2位走行でチャンピオン確定。目の前にはトップを走る車両がいる。チームの無線からは「ポジションキープ」の指示。さて、アナタならどうする?

個人のスポーツと異なり、大きな組織やスポンサー、チームとして動くモータースポーツ。この場面ではチームの無線指示にしたがうのが鉄則といえよう。

しかし、「あんな試合は見たくもない!」「いや、グループリーグを勝ち上がるための賢いプレーだ!」など、ファンのさまざまな声も大事だ。声援がそのスポーツのモラルとマナーを育てるのだから。

アメリカのプロスポーツ観戦はファンの見る目も肥えている。メジャーリーグ、イチローのバッターボックス、カウントはノーストライク3ボール。ピッチャーが投げたド真ん中のストレートを見事にセンター前にクリーンヒットを放つも、観客はブーイング。

「おいおい! 劣勢のピッチャーにストライク1個は獲らせろよ」というのがファンなのだ。

これまた、メジャーどころのレベルではないアメリカの国民的スポーツがNASCAR。スポーツでも全米放送はまれで、NFL(アメフト)とNASCARくらいというアメリカの国技的レース。

2001年の秋、初めてテレビ取材で訪れたアトランタスピードウェイ。30万人がスタンドを埋め尽くす。そのスタートセレモニーから国家斉唱とともにB1爆撃機が急下降!アナウンサーは絶叫する。「Power of America」ときは2001年の同時多発テロの2ヵ月後。まさに戦争へと国民感情を掻き立てる戦略に背筋も凍る思いだった。

いやいや話がそれた。アメリカンモータースポーツの醍醐味、300㎞/hオーバーの鉄の塊が40台、まさに圧巻のド迫力。

日本では馴染みがないかもしれないが、デイル・アンハートJr.の説明をしておこう。国民的英雄のNASCARレーサーである。日本でいうなら、ミスタージャイアンツ・長嶋茂雄のような存在だ。

アトランタのレースがスタートして序盤。そのJr.がちょうど我々の目前の4ターンで前車を軽くプッシング。当てられたクルマは一瞬ふらつき、その横をJr.
は難なくパスしていく。

そしてJr.がその接触した4ターンに戻ってきた瞬間、観客席は総立ちで高く手を上げ親指を下に向けた。「Boooooooooo~」たとえ、国民的英雄のJr.であってもラフプレイは許されないのだ。厳しいファンの見方にむしろ感動を覚えた。

これこそスポーツマンシップのあるべき応援の姿。微力ではあるが、日産本社で開催されるスーパーGTのパブリックビューイングの解説者として、つねに「何がカッコよく」「何がファインプレー」なのか、を啓蒙している。

とくにレースの世界は、ファンには見えづらいシーンも多く、見えないラフプレイが日常だったりもする。サッカーではビデオによる審判補助システムが採用され、より公平性を保つことに寄与している。ゲームを一時中断することができるスポーツならではだが、レースの場合はレース中または後の審議となる。

W杯、日本代表のポーランド戦での後半のプレーをファンは大いに問題視し、語ってほしい。そして、日本のモータースポーツでも、ファンは大いにプレーを議論し、ブーイングし、あるいは、スタンディングオーベーションを贈ってほしい。

ファンがそのスポーツを変えるのだ。7月21日、22日は富士スピードウェイでブランパンGTアジアが催される。本誌の発売日には結果も出ているが、もちろん、フェアプレイで臨むつもりだ。

 

【砂子塾長】
F3、JSS、N1耐久、スーパー耐久、全日本 GT選手権などで活躍し、引退後の現在は高性能ドライビングシミュレーターを擁する『東京バーチャルサーキット』でインストラクターを務める。陸・海・空と、さまざまなエクストリームスポーツに挑むアスリートでもある。

Revspeedで毎月コラム掲載