第30回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』に加え、『砂子塾』と銘打つ富士P2や筑波ジムカーナ場での広場トレーニングで多くのドライバーを教える砂子塾長の連載コラム。今回は動物の世界から見る想像力の意味とそこから生まれる効果について考える。

想像力こそが人間を進化させた

月末の振り込みを済ませようと銀行へ。ATM前には長蛇の列。5機のATMが並び、その順番を待つ。ひとりずつ、空いたATMへと。ここでイラッとするシーン。

お前、機械の前に行ってから鞄の中の通帳やカード探すなよ!ボサッと並んでないで、自分の順番が来る前に、そんなもん用意しとけ!!!!!

今回はズバリ『段取り』

 

『段取りは想像力』である。

ATMで自分の順番が来たときのシーンを想像できないのか?はたまた公的自己美意識の欠落なのか?

日常のちょっとしたシーンから仕事・遊び・旅行すべて段取りが必要。

とくに自然が相手となるスポーツはその日の気象情報、海であれば干潮・満潮時刻のインプットも大事なルーティンである。そこから段取りを決めていく。

たとえば、ウィンドサーフィンで、その日、海に出るとする。午前10時の時点で南西の風4m、予報ではその後6mに上がるのだが、干潮時刻は朝の8時で、満潮は午後2時である。満潮時刻に向け、風は予報より強めの風が吹くのは、サーファーの常識。

それも見込んでワンランク小さめのセイルを組んでおこう。また、そこまで上級者でなければ、午前中だけで、風が強くなる前に陸に上がろう……となる。

 

段取りは想像力。何も人間だけの話ではない。

高い知能と社会性を持つオオカミ。彼らはやみくもに狩りなどしない。体力、怪我のリスクを最小限にとどめて狩りの選択と段取りを考える。

とあるオオカミの家族が、バイソン(バイソンを襲うのはハイリスク)の群れの1頭を集中的に監視し、軽い攻撃を幾度も加えていた。そのバイソンは1週間後に肺炎になり、弱り、彼らの餌食になったというのだ。

狙われた草食動物はストレスを感じ、ときには怖くなり、群れから離れてしまう者もいる。そうなれば捕食するものには好都合となる。この場合、オオカミたちは1週間も前から、狩りの段取りをしていたのだ!

観察眼、準備、実行。ワイルドであり、知的過ぎる。

気象も野生も関係ない、都会での日常。飲み会で「場所がわからない~」という電話。おいおい、いまどき「グーグルマップ見ろ」である。知らない場所に行くならちょっと時間があるときにマップで確認する。それも写真に切り替えれば、お店の入り口さえも確認可能である。

集合時刻に遅れることは、いまやクルマであっても、予期せぬ事故渋滞を除き、許されない。だって出発1時間以上前に到着時刻をグーグルで確認し、現在の道路状況を見て出発時刻を決めればいいのだから。

TVCに来る飛び込みのお客様。その多数がドライビングはあまりよろしくない傾向にある。行き当たりばったりの人生が炸裂している。

知らない店に、そして、その時の状況がわからない場合には、1本の電話でこと足りる。その少しの段取りを怠ることで『一事が万事』なのだ。それだけでもできれば、多少は落ち着いて臨める。

 

レース。海外戦のブランパンGTワールドチャレンジ・アジア(2019年から改称)。

マネージャーの仕事ぶりが存分に発揮される。

10名のスタッフの夕食とて容易ではない。エアーチケット、宿泊先手配、お弁当、ゲストの到着、祝杯の手配(これいちばん大事!)。すべてを準備しなくてはならない。ドライバーは気楽なも
んだ(笑)。

メカニック・エンジニアたちは金曜からテストスケジュールを組み立てる。ブレーキ焼き入れ、セッティング、タイヤ皮剥き、これを気象予報やトラフィックコンディションも想像し、段取りしていく。微妙な天気でのピットには必ず雨雲レーダーが映し出されたPC画面が立ち上げてある。

ことなきことのないように。すべては段取りから始まる。

合理を追求する姿勢こそがレースでは求められる。

自然界では怠れば命をも脅かす『段取り』と『想像力』。しかし、生活すべてをそうする必要もない。ぶらり海外旅行などでは無計画とそのときの気分やハプニングを楽しむのも大ありだ。

緩急つけて人生の段取りをしていこう。

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