第21回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長が今季は10 年ぶりに現役復帰! ブランパンGT アジアシリーズに加え6月は富士SUPER TECにも参戦した塾長やTVCを取り巻くコミュニティでレース活動も盛んだが今回はその中で運を引き寄せた男の話。

引き寄せる『運』

富士では50年ぶり!国内では10年ぶりとなる富士24時間レースが開催された。
現役時代、7月の十勝24時間レースは風物詩みたいな存在。さまざまな物語が生まれ、毎年、話題に事欠かなかった。

ポルシェで出場したある年、24時間のゴールまでわずか数分のところで、最終コーナーから立ち上がった先のストレートでS2000がストップ!すかさず無線でピットと交信した。

「ちょっとバンパーが傷つくかもしれないけど、S2000押してゴールさせていい?」ピットからの返事は「もちろんです!押してください!」チェッカーを受けた後、S2000をゆっくりバンパー・ツー・バンパーで押していく。ピットレーンでは大きな歓声!傷つきながらもすべてのマシンが無事ゴールする。

24時間レースの感動シーン。スタッフ、観客とも一体となれた、いい思い出だ。

富士24時間レースはエンドレスGT-R(GT-RニスモGT3)で走った。残念ながらトラブルで、14時間までトップを快走しながらも、勝利は夢と消えた。同じチームのもう1台、エンドレス86は夜中の不運としかいいようがないアクシデントでクラッシュに巻き込まれ、リタイア。あまりに不運。しかし、これもまたレース。

というわけで、今回のテーマは、まさに『運』だ。よくいうセリフ。「あいつは運がよかっただけ」「ついてねぇ~な 運が悪い」など、運のよし悪しを言葉にすることは多い。自身を運がいいヤツと思うか、それとも悪いヤツと思うか?

運にはふたとおりあると思う。回避しようもない自分の行動や準備と無縁の運。今回のエンドレス86のクラッシュもそうだが、天気もそう。ひさしぶりに電車に乗ったら、その電車がストップ(笑)「なんてツイていないんだ、俺」なんてことも…。

それとは別に、自身で引き寄せる運もある。これは正確には運とは呼ばず、運に見えるような『運命』とでも表現しようか。

メジャーで長年活躍したイチロー選手の名言に「準備や努力をせずに目標など語る資格はない」というのがあるが、まさにおっしゃるとおりで、逆に、準備や努力をしたからこそ得られる運がある。

最近、俺や東京バーチャルサーキットを軸としたコミュニティの動きが活発で、コミュニティから生まれたレース活動が盛りだくさん。そこで実際にあった、運命をつかんだKの話をしよう。

レースをやめて、もう何年経つのだろうか?いまはサラリーマンの仕事の傍らドライビングレッスンを主宰するも、自身のドライビング探求欲は収まらず、自信を持ったコーチングを目指すために東京バーチャルサーキットに通い詰めていた。

寝る間を惜しんで働き、走り、走るために夜のアルバイトまで。「40歳のやることじゃないぞ!」まわりの友人は笑う。しかし、あきらめなかった。

とあるラリーチームがMINIでラリーをやるために、MINIチャレンジレースに出場することになった。そのオーナーはレース畑のことがよくわからず、相談を受けた。「砂子さん、誰を乗せたらいいですか?」

俺は迷うことなく、Kの名前を挙げた。もちろん、速さや人望とやる気と努力が見えなければ、Kを推薦することなどないだろう。オーナーはいった。「Kは勝てますかね?」

俺は即答した。「勝てると思います」努力と準備だけではない。人とのコミュニケーション能力も重要だ。一緒にやっていくとき、間を楽しく円滑にすることができるか?

それもKはそつなくこなせる。自信ありありの推薦は決して出会った『運』だけでなく、勝ち取った『運命』『宿命』である。

迎えた第3戦のウエットレース。トップでチェッカーを受けるKにピットは沸き、多くの友人が歓喜・感動した。決して運などではない。自身で手繰り寄せたチャンス。『不可逆的宿縁』である。

 

 

【砂子塾長】
F3、JSS、N1耐久、スーパー耐久、全日本 GT選手権などで活躍し、引退後の現在は高性能ドライビングシミュレーターを擁する『東京バーチャルサーキット』でインストラクターを務める。陸・海・空と、さまざまなエクストリームスポーツに挑むアスリートでもある。

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