第28回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』に加え、『砂子塾』と銘打つ富士P2や筑波ジムカーナ場での広場トレーニングで多くのドライバーを教える砂子塾長の連載コラム。2019 年もブランパンGTアジアシリーズに参戦予定。今回のテーマは『感度を上げろ!』

考えて正しく認識して予測しながら感じろ!

正月になると食わざるを得ない『お節料理』。味が濃く、砂糖をたくさん使い、甘ったるいお節は子供の頃からやや苦手。元旦から「ハンバーグが食い
てぇ~」な~んて思った方も多いのでは?(笑)。

子供時代に苦手だったカズノコ、いまでは縁起物として食し、美味いとも感じるようになった。そもそも、その頃、嫌いだった食べ物が、いまでは食べられる。そこで、ふと、思う。何で食べられるようになったのか?

一説には、味覚と連動する嗅覚の衰えともいわれる。ただただ臭く感じなくなっただけ。また、苦味感受性の変化、そもそも、子供時代は初めて口にするものが多く、脳にその食べ物情報がないせいで、より刺激的に感じる……など諸説あり。まあ、本気で解明する必要もなさそうだが……(笑)。

人間の感覚器官には『視覚』『聴覚』『嗅覚』『味覚』『皮膚感覚』『運動感覚』『平衡感覚』がある。

皮膚感覚の『くすぐったい』は面白い。そこは首、脇の下、膝の裏、足の裏など動脈が近くを通っている部位で、万が一、怪我を負うと大量出血の可能性が高いため、自律神経が集中しているそうだ。

たとえば、危険な昆虫がそこに止まった場合に、鋭敏に判断が利くよう、生命維持としての進化でそうなったわけである。また、自身でくすぐっても、そう感じないのは、脳が予測できているため。

ちなみに、他人にくすぐられると、小脳は『喜んでいる』のと似た状態なのだそうだ。古代ローマでは拷問に『くすぐり』があったとか。おいおい、喜ばせてどうすんねん!もっとも、くすぐったさの感じ方には、かなりの個人差もあるよね……。

で、今回は『感じる』がテーマ。あ、いっときますが下ネタちゃいますからね。

モータースポーツでは前述の7つの感覚器官の『味覚』以外の6つが必要である。いうまでもない『視覚』、ステアリング情報やお尻からの情報は『皮膚感覚』と『運動感覚』『平衡感覚』のミックスで感じる。

いつも砂子塾ではいう。「感度を上げろ!」と。

とくに東京バーチャルサーキット(以下TVC)でシミュレーターを数多くやる中で、思い始めたのは、リアタイヤのロックは、通常、お尻情報が大半と思っていたのだが、じつはかなりステアリングを持つ手にも情報が来ているということ。

また、実車でも、目を閉じて助手席で、ジムカーナなどの走りを味わうと、見えない状態でも、ステアリングを握っていなくても、アンダーステアやオーバーステアに気づくことだ。それは『平衡感覚』と『皮膚感覚』にも近い。しかし、多くのアマチュアを見てきて思うことは、曲げる場所の概念の違い。

富士スピードウェイのセクター3のレクサスコーナーなどでは顕著に現れる。ロガーデータは必ずオーバースピード進入なのだ。それを当人はオーバースピードともアンダーステアとも感じてない。そもそも曲げようとしている場所が奥に行き過ぎているのだから。

本来、我々が曲げようとしているゾーンでは間違いなくアンダーステアなのだが、その先のクリップ直前が曲げたい場所という認識であるため、そこで、ようやくボトムスピードになり(いちばん車速が落ち)、何とか曲がることができている。

だから、その手前の、本来、最も曲げたいゾーンでは、オーバースピードともアンダーステアとも感じていないわけだ。これは「感じろ」どころではない話。認識の違いは感覚を鈍化させる。つまりは『アンダーステア放置状態』である。

 

感覚器官の感度向上には、シミュレータートレーニングと、砂子塾のような広場トレーニングが最適。

まず、正しく認識し、感じること。サーキット走行の前に、広場での感度磨きは、野球でいえばキャッチボールのようなもの。『視覚』『聴覚』『皮膚感覚』『運動感覚』『平衡感覚』すべての感度はトレーニングで必ず向上する。

ブルース・リーの名作『燃えよドラゴン』の名台詞「Don’t think! feel!」「考えるな! 感じろ!」武術の世界では、思考が動きを邪魔してしまうこともあろう。しかし、クルマは違う。「考えて、予測しながら感じろ!」である。そして「楽しめ!」(笑)

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