第26回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム。10年ぶりのレース復帰となったブランパンGTアジアシリーズも全日程が終了し(シリーズ2位)暇になったのか、読書に励んでいるらしいだけど、それ読まなくたって、十分に『粋なおせっかい』できてますよ、塾長!

粋で乙なおせっかい自己啓発にぜひ!

江戸時代には居酒屋が1800件ほどあったという。1603年の江戸幕府会議で始まった江戸時代。倒幕が1867年だから、決して遠い昔などではなく、たった151年前。人口は家康の江戸初期で15万人程度だったのが、元禄8年(1695年)には80万人とも考えられている。

日が暮れれば寝る。日が昇れば起きる。その時代の居酒屋に興味が沸く。娯楽やニュースなどなく、かわら版こそあれど、識字率も相当低い。もっぱら酒のつまみは、

「こないだ見ちまったんだよ」
「神社の境内でお糸さんと武家屋敷の末吉が……」

そんな身近なゴシップネタがメザシに熱燗のお供であったろう。そんなたった150年前の庶民の暮らしや生き方に興味を持ち、買ってみた小説が『本所おけら長屋』(PHP文芸文庫)だ。

江戸時代の江戸の町人、庶民の多くは『長屋』に住んでいた。その、おけら長屋を舞台に米屋の万造、酒屋奉公人・松吉、魚屋の辰次、後家女のお染、左官屋の八五郎に流れ着いた浪人・鉄斎他12家族(独り者も含め)が鍵すらない、ペラペラの襖しかない長屋で暮らし、笑い、泣き、助け合ってたくましく生きる様を描いた作品。全11巻なのだが、早4巻をあっという間に読破している。

『火事と喧嘩は江戸の花』… 巻き起こる出来事に究極のおせっかい!

この人情溢れる物語はオレにとって自己啓発にも思える。人生の中で起きるさまざまな事柄にどう対処していくのか?江戸っ子の嫌いなモノは『野暮と薄情』。

物語では夕暮れに独り寂しく水面(みなも)を見つめるガキ(江戸っ子は言葉使いは悪い)をほっておけなく話を聞く。そんなおせっかいから始まるのだ。

では、江戸っ子の好むものは何?『粋で乙』だ。呉服屋に着物を届けにいく最中、ババアが目の前で武家の乗る駕籠にぶつかり倒れこんだ。「気~つけろい! ババア!」そんな婆さんにそっと手を差し伸べ、起こして家まで送った。すっかり着物を届ける時間が遅くなってしまった。

「あら、今日はどうしだんだい? 随分と遅かったじゃないの」と呉服屋の女将がいう。

「おう、すまねぇ!せんの通りで小股の切れ上がったいぃ~スケがいてよ!声掛けて茶屋まで行ったはいぃ~けど、その先まではど~にも上手くいかなかったんでぇ… 面目ねぇ!」こんな嘘のいいわけは最高に『粋』じゃねぇーか。

『野暮と薄情』『粋で乙』

で、読者諸君に何がいいたい?(笑)現代に溢れる『薄情』芸能人が通行人を飲酒運転ではねたドライブレコーダーの映像は記憶に新しいが、何より何ごともなかったかのようにその場を通り過ぎる人たちにも驚かされた。

たとえば、サーキット走行会。もちろん、初めてで右も左もわからずに不安な人もいるだろう。そんな人には、「こう見えて、オイラは年
10回くらい走ってるんで、少々勝手がわかってるんで、いや、遅いんですが、何でも聞いておくんなさい」と声を掛けてあげよう。

「何ならトルクレンチで増し締めでもしときやしょう!」

ほかのこんなシーンでは…。女性ドライバーが細腕で一生懸命、タイヤ交換をしている。そんなときゃ、迷わず!「あっしがお手伝いしやしょう!」「エアゲージも持ってるんで、内圧も測っときやしょう!」(江戸っ子風に)と、そんな具合に声を掛ける。迷惑な話ではない。

タイヤ交換を無事に終えた彼女は自販機へと走る。彼女の手には冷たい缶コーヒー。

「ありがとうございました!」
「ホント助かりました!これ飲んでください!」
「あの~お名前は……?」

そんなときにヨダレ垂らしてライン交換なんかは粋じゃねえ。
「ふっ… あっしなど、名乗るほどのもんじゃこざいやせん」粋で乙過ぎて爆笑は間違いない。

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