第55回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

※ この記事は2021年にRevspeedコラムで掲載された記事です。


2003年スーパー耐久シリーズ。当時のS耐久は現在のGT3、GT4はなくクラス1が最速のマシン。

そのクラス1=総合優勝を長年に渡って独占してきたのがスカイラインGTRだった。スカイラインの名前が消滅するニュースは読書諸君も知っている事だろう。伝承を途絶えさせた日産の方針は10年後あたりの結果を見ずに是非は問えない。

話を戻そう。32から始まったGTRストーリーは33、34へと続き2003年を最後の年となった。変わりにクラス1の主役となったのがポルシェだ。S耐用にポルシェが作った専用マシン911GT3JGN。

そのポルシェデビューの2003年は激しいタイヤメーカーのワークスの戦いとなった。横浜、ファルケン、そして我々は日本で初となるピレリタイヤによるワークス参戦だった。

エンジンはコックス、シャーシはチーム郷といった日本トップによる体制をひいた。

横浜のドライバーは織戸・谷口、ファルケンは竹内・田中、他チームも錚々たるドライバーラインナップ。

そして向かえた十勝24時間レース。24時間だけはやはり特別。全体にゆったりとムードでウィークは進行していく。

朝のピットに着くとチーム郷メカニックメンバーは24時間用に製作したキラキラの電光掲示板サインボードに

「本日の昼食、牛1頭」「冷やし中華はじめました」

などと意味不明なお笑いを掲示板に記してあった。

やつらとはお笑いのツボも合い、真剣ながらもどこかにお茶目な笑いが仕込まれていた。例えばダミーとなっている給油口を何気なく開けると、そこにはSEXYなグラビアアイドルの写真が綺麗に貼られている。笑!

そんないい仕事をするお茶目なやつらはいつしか「GoodJobs」と呼ばれた。とはいえ始まりは自称である・・・笑

そんな24時間がスタートし、順調に我々はトップ争いを演じた。そして夜中に事件は起きたのだった。

ストレートを通過し、1コーナーのブレーキングに入った瞬間!バツン!!!!???

と、電気が消えた!ってエンジンストップ!突然の暗闇で当たり前のパワステなし!

なんとか格闘し無事にコースサイドへとマシンを停めた。頭の中をグルグルとよぎる。

「なんなんだ!???」

とにかくバッテリーのターミナル配線が抜けたとしか考えられられない・・・。

当然、無線も電気がシャットダウンしているため、使えない。Goodjobsが緊急時の為にマシン室内に懐中電灯と簡単な工具を入れてあった。まずはそれを取り出し・・・。

開けると・・・そこには

「無事に帰って来てね!(ハートマーク付き)」

と書かれた美女のヌード写真が貼られていた・・・。オレは天を仰いだ。

「やられた・・・」笑

面白がっている場合ではない。暗闇の中、その袋から懐中電灯を取り出し、バッテリーターミナルを確認した。付いている、

問題ない・・・おかしい・・・。

その瞬間を思い出した!

「ブレーキングに入った瞬間、前車から大きなタイヤカスが飛んできた・・・。」

「まさか?いや、もしや?」 

半信半疑でキルスイッチを戻しスターターボタンを押した。

「ブッオ~ン!!!」

エンジンがかかった!なんとフロントガラス下にあるキルスイッチのワイヤーにタイヤカスが直撃し、シャットダウンしたのだった。

無事でよかったが、なんという不運。残念ながらリペアエリアへと運ばれ再スタートしたのだが優勝はこの不運で消えてしまった。

メカ達と冗談を言い合える関係。笑いのあるピット。そんなピットがいい。怒号が飛び交うピットにはいい事などない。

奇しくも今年の24時間でそのGoodJobsと再会した。やつらは今回も丁寧な仕事ぶりで我々を完走へと導いてくれたのだった。


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