第24回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム。今回は公的自己美意識について自身がその瞬間、世間や社会からどのように見られているのかを意識することで同じクルマに乗っていてもかっこよさが変わってくるそれをイーサン・ハントから学んでみよう

イーサン・ハントに学ぶ公的自己美意識

皆さんはご覧になっただろうか?この夏公開された『ミッションインポッシブル/フォールアウト』。

ご存知、IMF(極秘諜報部/不可能作戦)部隊のトム・クルーズ演じるイーサン・ハントらの活躍を描くMIシリーズの6作目だ。正直、内容はどうでもいい(笑)。

とにかく本物!CGなしアクションにこだわり抜いた今作。もちろん我々としてはカーアクション・バイクスタントシーンに大注目なわけだ。

まずは登場するBMW M5。そしてパリ市内を激走するバイク、BMWスクランブラー&これまたBMWの、86年式E28型5シリーズセダン。どうやって撮ったの?って思うくらい過激なスタントシーンがテンコ盛り!

E28では、いまのクルマにはあまりないMTシフト横のサイドブレーキをふんだんに引きまくり、サイドターンを魅せてくれる。すべてトム・クルーズ本人がステアリングを握り(過去にトムはレッドブルのF1も操縦経験あり)撮影されたという。ぜひ彼にはモノホンのレースに出てほしい(笑)。

このMIシリーズでは、2011年公開の『ゴースト・プロトコル』からBMWが全面協力し、大きくブランドイメージ向上に役立てている。そりゃイーサン操るM5はカッコえぇ~に決まっている。

007シリーズではジェームス・ボンドはアストンマーティン。これも決まりごとで、これもまたカッコえぇ…。

古くはスティーブ・マックィーン主演の『ブリット』。サンフランシスコを舞台に68年式マスタングGT390が激しいカーチェイスを魅せた。激しいスタントシーンはなかったが、クロード・ルルーシュ監督の名を世界に広めた1966年の名作『男と女』。

ダバダバダ~のスキャットが全編に流れるラブストーリーだが、ここでもレーサー役を演じるジャン・ルイ・トランティニアンがモンテカルロラリーを終え、彼女のもとへ1000km!マスタングを走らせる。いずれも映画の中で重要で魅力溢れるクルマたち。

ところが…。最近の日本のテレビドラマにモノ申す!!

クルマが出てくるといえば、主人公の美青年(少しナヨっとしている)サラリーマンが彼女と歩道を歩いていると(当然、主人公はクルマなど持っていない)、後ろから軽いクラクション。現れたのはメルセデスに乗るイケ好かない成功した友達。

こんなクルマの描かれ方! ダメッ!(笑)何だか悪役しかクルマに乗ってないやーん。強くカッコイイ男が乗るクルマ。日本の自動車メーカー広報の方、マジでお願いします。映画やTVでなくとも同じ。つまり、乗り手や、そのドライブ作法やマナーで、そのクルマの印象はいかようにも変化する。

せっかくドライブはいいのに、クルマから降りたらダサい服。これもアカン(笑)。

以前、このコラムでも述べた『公的自己美意識』。自身が世間やその瞬間の相手にどう思われるか? それがクルマの印象にも作用する。たとえばこんなシーン。2車線道路の追い越し車線走行中、前方には駐車車両。普通なら左車線を走るクルマは減速を強いられる。

気の利く男は、さらりと進路をセンターラインに寄せ、左車線のクルマの生存スペースをつくってあげる。そうすれば2台横並びであっても、過度な減速をすることなく、駐車しているクルマをやり過ごせる。そんな『気の利くドライブ』が、そのドライバーとそのクルマを、よく見せるのだ。

街中では高級車になればなるほど世間の目は厳しいものとなる。「フェラーリなんか乗りやがって」という思いは、誰にもあるのでは?

クルマは公共交通機関と違い、そもそもが自分独りの自由な移動空間を確保する利己的乗り物。だからこそ、車外への気配り、他のクルマへの気遣いが大事で、乗り手によってポンコツもカッコよく見えてくる。イーサン・ハントに見えてくるかどうかは別だけど…(笑)。

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