第18回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとしてアマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長が持論をもとに、スキルアップを願う読者にエールを贈る連載コラム。
今季、ブランパンGT アジアシリーズにチームスタディBMWよりM4GT4でフル参戦!つまり、レース活動開始となる塾長第18回目は現役復帰までの10年間を振り返る。

現役復帰までの10年間

すでにオレ自身のSNSで発表済みではあるけれど…。砂子塾長、レーシングドライバーとして、現役復帰です!

ブランパンGTアジアシリーズにフル参戦。チームはBMWサテライトワークスチームのスタディから。車両はBMW M4 GT4。FIAGT4規定のレースカー。

引退して早10年。せっかくだし、今回は復活に至る経緯と心情を赤裸々に語らせておくれ。

現役時代、この世界にしがみつく先輩方々をたくさん見てきた。プロドライバーとして、必ず誰もが終焉を迎える。オレは『美しい終わり』を求め、そして第二の夢である『八重山離島暮らし』の実現に向けて43歳で引退した。

それから3年間の石垣・西表島での暮らし。珊瑚の海、マングローブ、ジャングルのガイド暮らしは収入こそ少ないものの、満足いくやり甲斐のあるものだった。

東京へ帰ると決めた、その直後の東日本大震災。そして、その1ヶ月後の羽田に降り立つ飛行機から見た明かりの消えた東京の寂しい夜景は脳裏に焼きついている。

ノープランで戻った、その日から仕事探しが始まった。それから数ヶ月後、西表島にもよく遊びに来てくれて、一緒にダイビングしまくった谷口行規さん(現ユークス代表取締役であり、東京バーチャルサーキットのオーナー)からレーシングシミュレーターに関する話を受けた。

当時、谷口さんはWTCCで世界を転戦し、レーシングシムをヨーロッパで経験し、衝撃を受けたところでもあった当時の日本には、当然そんなものはなく「世界に後れを取っている」と感じた谷口さんが、「日本にも必要」で、「まさに塾長にうってつけの仕事」といって、任せてくれたのが、東京バーチャルサーキットのインストラクターだった。

その年の11月にイギリスのベースパフォーマンス社を訪問。レーシングシムをドライブし、オレも衝撃を受けた。

「これ、実車と同じじゃん…」ステアリングに伝わるフィードバックや脳の使い方。そして、そこにエンジニアやチームオーナーと一緒に通うフォーミュラ・ルノーやF3の若手ドライバーのトレーニング風景、走行後のミーティング風景…。

「これは急がねば!」かくして日本初のレーシングシミュレータートレーニングジムとして、2012年2月に東京バーチャルサーキットはオープンするのだった。

それから丸6年。毎日、ドライビングを考え、解析、そして、インストラクションの日々。もうそれは現役時代よりも遥かに多くの時間である。どう伝え、理解させるかと思案したときに、四文字熟語的な表現が記憶に残りやすいということもわかった。『走行記憶』『初期踏力』、三文字だけど『再現性』など。ドライビングは「記憶・解析・フィードバック」この頃から呪文のように教え子たちに連呼した。

レーシングシムの使い方は、決して新しいサーキットを覚えるためだけにあるのではなく、ドライビングそのものを理解し、癖を矯正し、ドライビングの思考回路、すなわち脳を鍛えるものである。

フォーミュラタイプだけではユーザーは限られてしまう。絶対にツーリングカーシム製作が必要。「本物でつくろう」ということになり、ポルシェを半分にぶった切り、赤坂の高級マンションの1階に入れた。

どうハンドリングを再現するか?とにかくそれが重要。視界は本物を用意したのだから!

テスト、テスト、テストの日々。ある意味、ステアリングに伝わるマシン挙動を日本でいちばん知ることになった。

そして、多くのドライバーがTVCで育ち、成長していった。草レース、走行会、タイムアタック、スーパーGT、F3、スーパーフォーミュラ…。

巷でもレーシグシミュレーターショップが見る見るうちに増殖。いまでは30店舗を超えるまでになった。もちろん、トレーニングに特化したのは数店舗で、ゲームの延長線上に位置する店舗がその大半である。

TVCに通うドライバーたちが結果を出していく中で、昨年末に1本の電話をもらった。電話の主はチームスタディBMWの鈴木康昭代表だった。

第2話に続く。


【砂子塾長】
F3、JSS、N1耐久、スーパー耐久、全日本 GT選手権などで活躍し、引退後の現在は高性能ドライビングシミュレーターを擁する『東京バーチャルサーキット』でインストラクターを務める。陸・海・空と、さまざまなエクストリームスポーツに挑むアスリートでもある。

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