第17回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

高性能ドライビングシミュレーターによるトレーニングルーム『東京バーチャルサーキット』のインストラクターとして、アマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長が持論をもとに、スキルアップを願う読者にエールを贈る連載コラム。
第17回目は『速さ=クルマやタイヤの正しい使い方』という道理について85%でも正しく操れば、十分に速く走れるはず!と説く。

ドライビングとは、速さとは道具を正しく使うこと

以前にこのコラムでも紹介した映画『2001年宇宙の旅』の冒頭シーン。人ザルが動物の骨を武器=道具として使い、空高く投げたその骨はパーンアウトして宇宙ステーションへと変わる…。数百万年のときを超えた道具進化の象徴シーンだ。

さて、この地球上の生き物で道具を使うのはホモサピエンス、我々人間だけと思ってはいないだろうか?言葉を使い、話すのは人間だけ、遊ぶのは人間だけ、家族や友達が亡くなって悲しむのは人間だけ、そんな間違った認識をしてないだろうか?

動物はビックリするほど賢く、豊かな感情を持ち、道具も使う。冬のある夜、出掛けようと駐車場に行くと、ボンネットの上で寝ている猫がいた。その猫はオレのクルマが戻ってくると、スルスルとどこからか現れて、暖かいボンネットに寝転ぶ。

そんなボンネットが猫宿となり1週間が過ぎた頃、いつものように帰ってくると、いつものようにやってきた猫。いつもと違うのはネズミを銜えていることだった(笑)。いつも暖をとらせてもらっているお礼にネズミをプレゼントしようとしているのだ。も、もちろん、丁重にお断りした。猫に感謝の気持ちがあるのに人様が感謝の心を持てないはずはなかろう。

道具を使う動物達。パッと頭に浮かぶのはやはり猿か。ほかにもイルカ、ラッコが石を使って貝を割るのはご存知だろう。面白いところではムラサキダコ。メスは腕に透明な長い膜を持ち、この膜はカツオノエボシという猛毒クラゲの毒に免疫があるのだという。

ムラサキダコはカツオノエボシに出くわすと、その猛毒の触手を1本ちぎって手に入れ、その長い猛毒触手をまとい、振りかざして外敵や捕食者を追い払うのだという。まさに威力はヌンチャク以上だ(笑)。

道具というわけではないが、イルカはフグを少し口に含むことがあるそうだ。フグはご存知のとおり、驚かされると神経系の化学物質を出す。そのフグをちょっと口に含んだイルカはその後、フラフラと漂う。これつまり「酔っ払う」もしくは「ラリっている」状態らしい。少しなら毒も気持ちいいことをイルカは知っていてフグを使うのだ。

さて、本題に入ろう。数あるスポーツの中でもモータースポーツほど『道具』に左右されるものはない。

サーフィンなどはボードがいくら高価なプロ仕様であってもサーファーのスキルがなければ、波をキャッチし、テイクオフすることすらできない。クルマはアクセルさえ踏むことができれば、いやおうなしに加速してくれる。クルマの運転やスポーツドライビングにフィジカル的ミラクルはまったく必要ない。

ごくごく誰でもが可能な、ゆったりとした操作の組み合わせ。いつもアマチェアレーサー達には「素早い操作は必要ない」「ブレーキの初期踏力とカウンターステアだけが速く、それ以外はすべてゆっくり」と教えている。まあ、シフトアップは速いほうがいいが。

あくまで考え方として、クルマやタイヤのポテンシャルを正しく使い、その力を奪う動作はすべきでない。正しく使って85%でも引き出せば、十分に速く走れる。何も100%に近いプロと同じでなくていい。『美しく、華麗で、優しいドライビング』を目指すのだ。

 
ドライビングはあくまで道具の『使い方』であり『操り方』。本格的なレーシングカーでなければ体力・筋力・運動神経要らず。正しいゾーンとスピードに落として、ゆっくり操舵。旋回し終わったところでアクセルON。何もミラクルは必要ない。

道具を使うと便利であり、生身ひとつではあり得ない身体拡張機能をともなう。それは快楽でもある。人も動物も遊び、道具を使い、そして快楽を求める。正しく使ったときの悦びを味わおう!


【砂子塾長】
F3、JSS、N1耐久、スーパー耐久、全日本 GT選手権などで活躍し、引退後の現在は高性能ドライビングシミュレーターを擁する『東京バーチャルサーキット』でインストラクターを務める。陸・海・空と、さまざまなエクストリームスポーツに挑むアスリートでもある。

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