第57回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

※ この記事は2021年にRevspeedコラムで掲載された記事です。


007 No Time to Die」が2021年10月、待望の公開となった。ダニエル・クレイグ=ジェームズ・ボンドの最終作となるこの作品はコロナ禍で2年もの間、公開が遅れた。

その「No Time to Die」のネタバレないよう少し語ってみよう。

ジェームズ・ボンド=荒唐無稽な不死身の男ではなく、1人の男、1人の人間として描かれている。「愛」だの「恋」だの「家族」だのといった今までの007にはそぐわないストーリーなのだ。

時代を「変化」せざるを得ない、ジェームズ・ボンド像の変革でもあるように思える。

ダブルOエージェントを引退していたら後輩の007は若い黒人女性になり、キューバの作戦で合流した若い綺麗な女性エージェントはボンドをオジサンの先輩エージェントとしか、いや男性としてみてない。手当たりしだいのボンドから少し老いた男としてリアルに描いていく。

もともと、ピアース・ブロスナン007から引き継がれたダニエル版007からは、強いリアリティを描き続けてきた。

ピアース007「ダィ・アナザー・ディ」ではアストンマーティン・バンキッシュはひっくり返っても傷ひとつついてないのだ。笑

ダニエル版からは「慰めの報酬」のオープニング。アストンDBSがアルファロメオとの壮絶カーチェイスで、ドアは外れるわ当たり前だがボロボロになっていく。ぶつかれば凹むのがクルマだ。笑

「カジノロワイヤル」では、恋人となったヴェスパーが捕られ、アストンDBSで追いかけるが、その夜道にヴェスパーを縛り寝させた。間一髪!その横たわるヴェスパーを避けたもののDBSは激しく横転し、文字通りの粉々に・・・。

このシーン、雨上がりのウェットで通常の公道なので、急な右ステアだけの横転から想像するに相当なハイグリップのタイヤとしか思えない。笑

カーアクションではないが、「スカイフォール」のオープニングでは列車に積んであるユンボを動かしフォルクスワーゲン・ビートル3台を乗り越えてクシャクシャにしてしまう。ボンドはクルマへの愛着はあるのか?笑

「スペクター」では新登場となるアストンマーティンDB10とジャガーC-X75とのカーチェイスでなんともあっさりDB10を河の底へと沈ませる。この間、5分53秒!笑ジェームズ・ボンドはクルマを大事にしない?いやいやそうでもないかも。「スペクター」ラストシーンで、休職しQのところに現れたボンド。

「ひとつ忘れ物をしてね・・・。」とQに伝えた。大事なモノを取りに来たのだ。

シーンはアストンマーティンDB5のスターターを捻り、懐かしむようにマニュアルシフトを1速へ。助手席には恋人となったマドレーヌが・・・。DB5への愛着を感じるシーンでエンドロールへ。

そしてこのシーンが「No Time to Die」へと続いているのである。

つまり、この007最新作を見るにあたって、最低でも前作の「スペクター」は見てないと分からないところがあるのだ。

登場人物含め、ストーリー含めダニエル版の前4作品を見ておく事をお勧めする。

「No Time to Die」ではこのアストンDB5がヘッドライトから突き出る銃口で定常円旋回しながら相手を撃ちまくるシーンがあるのだが、ステアは回転方向のままなので、砂子塾的にはカウンターを当てて欲しかった。笑

時代は流れていく。1960年代はボンドが女性をビンタしても文句を言う奴はいなかった。Mの秘書であるマネペニーも時代とともに変わっていく。白人女性のデスクワークだけだったのが、今やマネペニーは黒人女性となって戦闘にも加わる。

いつの時代も変わらないのが、男心を誘うクルマ・バイク・小道具・・・。(男だけじゃない!っと反論がきそうだが!笑)

そして、冷静沈着。強靭な肉体と技術で立ち向かい、明晰な頭脳と判断力で窮地を乗り切る男。ジェームズ・ボンド。バーテンに頼んでみよう「ウォッカマティーニをステアでなくシェイクで・・・」


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