第6回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

インストラクターとして、アマチュアからプロまで数多くのドライビングを見てきた砂子塾長の連載コラム自身の持論をもとにスキルアップを願うレブスピード読者にエールを贈る第6回目は『前庭動眼反射とOKR眼球運動』について

第6回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

前庭動眼反射とOKR眼球運動

1942年製作のアメリカ映画「カサブランカ」この名作をアメリカは第2次世界大戦中に製作していた事がまず驚きだが、何より劇中で語られるハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマン演ずる昔の恋人の2人が語る「大人の洒落た会話」が渋く、度々、映画史に残る名台詞として語られる。

「Here’s looking at you,kid.」

あの有名な台詞「君の瞳に乾杯」である。直訳すれば「ここにあなたを見てる男がいる」だが、なんとも洒落た翻訳だ。名曲「As Time Goes By」時の過ぎ行くままに・・・と共に日本の映画ファンにはお馴染みであろう。                

さて、前置きが長くなったが・・・今回はその「瞳」について語っていこう。

刑事モノドラマで死体の目を開いて、懐中電灯を目に当て死亡を確認するシーン。これは瞳孔に光を当てた際に起こる瞳孔の収縮を見ており、つまり意識しようが何をしようが生理的に瞳孔は健常者が生きている限り、その収縮・拡張運動は止めることが出来ない。

これは、恋する男女も同じである。彼女はあなたの事が好きならば、あなたの顔を前にして瞳孔が開きぎみになる。そもそも瞳は大きなほうが可愛くそして好印象を与える。そのために瞳を大きく見せるコンタクトまで販売されているくらいだ。

つまり、瞳孔さえ観察できれば彼女の「好き」という気持ちを確認できるのだ。いくら言葉で「好き」と言ったところで瞳は嘘をつけない。では、ドライビング中の生理的眼球運動に着目してみよう。

まずは「前庭動眼反射」これは頭の動きに連動して起こる運動で、頭を右に傾けると眼球は左回転して水平を保とうとするのだ。逆の傾きもしかり。この前庭動眼反射が起きた瞬間は正確に対象物を捉えづらい事がわかっている。

コーナーリングの最中に首を傾けたり、細かく動かしすぎないようにするべきで、動眼反射を頻繁に起こさないようにする事が好ましい。また、縁石などで自分が思った以上にクルマが大きく跳ねるような予想外の動きを起こした場合にも眼球はその動きに追いつかない。その瞬間「目が追いつかなくなる」症状だ。

もう一つの代表的な生理的眼球運動がOKR眼球運動だ。これは魚類、鳥類、哺乳類の全てに起こる眼球運動だ。ドライビング中は前から後ろ側へと景色は一定方向に常に流れている。その流れる景色に眼球が外側へと引っ張られてしまう。

また、バスケットのフリースローで、バックボード越しのお客さんが右~左と大きく全員が手を振るような規則的動きを見せた場合も同じくプレーヤーはゴールに集中しようとも眼球はその背後の規則的動きに眼球を引っ張られてしまう。あのNBAプレーヤーでさえ得点率は下がると言われている。

こんな経験をした事はないだろうか?前の周と同じところでブレーキング開始したはずなのに何故か止まりきれずオットット・・・。これはOKR眼球運動が起きてしまっている可能性が高い。自分は見ているつもり。しかし、流れる景色に眼球は外側へと動き、その瞬間は全く意識なく見ていないのだ。

以前、TVCで行った眼球観測実験では過去の経歴、つまり走行マイルが長いベテランほどOKRは起きにくく、アマチュアほど頻繁にこの運動が起きてしまっていた。つまりOKR眼球運動は経験を積む事によりその頻度を下げられる可能性がある。生まれつきの性能もゼロではないが後天的に良くなるという仮説は充分納得できる。

様々なシーンで起きる「瞳」の動き。認知・決定・判断・行動の流れの中で一番大事な認知、つまり視覚情報。これなくしてドライビングはままならない。正しい知識、正しい科学と認識。これこそドライビングいや、仕事・恋愛全てに通じる近道であろう。まだまだ語れる瞳について、視点についても1コラムのページ数が必要だ。

それにしても… 最近ではオレを目の前にして瞳孔を開いてくれる淑女はメッキリと… いない… 涙

 

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